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大学入学後にうまくいかなくなるのはなぜ? 発達障害のある学生の大学生活

入学後の様子の変化


高校までは比較的順調に過ごしていた学生が、大学に入学してからうまくいかないことが多くなるケースがあります。


保護者から見ていて、大学入学当初は「順調かな?」と思っていたら、しばらくすると家に帰ってきても部屋にこもりっきりになったり、大学のことを聞いても「うーん」などと言ってあいまいにしたりというところから違和感を覚える場合もあるかもしれません。

保護者の方から見ると、「なぜ大学に入ってから急にふさぎ込むようになったのだろう」と感じることがあるかもしれません。


体調が悪いのではないか、何かトラブルに巻き込まれているのではないかと心配になる保護者の方もいらっしゃると思います。もちろん、医療的な対応や緊急の支援が必要なケースもあります。ただ、私がこれまで見てきたケースでは、高校と大学の環境の違いに戸惑い、困りごとが大きくなっている学生が少なくありませんでした。



大学で求められる「自主性」


高校までの生活は、比較的わかりやすい構造の中で進んでいきます。


時間割はある程度決まっています。

クラスや担任の先生がいます。

同じクラスの友人に、宿題やテストのことを確認できる場面もあったかもしれません。

提出物や行事についても、学校側から声をかけてもらえる場面が多くあります。

進路についても、担任や進路指導の先生が関わることが一般的です。


一方、大学では多くのことを学生本人が選び、決め、管理する必要があります。


  • 履修登録でどの授業を取るか。

  • 講義ごとに入れ替わる同級生とどう関係を作るか。

  • レポートの範囲や締切を自分で確認し、忘れずに管理できるか。

  • レポートやテスト勉強をどの優先順位で進めるか。

  • 分からないことがあったときに誰に相談するか。


大学では、学生が自分で判断していく場面が増えます。


高校までとは異なりあらかじめやることが決められていないからこそ、大学生活やそこでの勉強が将来社会に出たときの準備にもなるのですが、発達障害やグレーゾーンの学生にとっては、この「自由さ」や「自己管理の必要性」が大きな負荷になることがあります。


私の著書では、自立を「精神的自立」「経済的自立」「社会的自立」の三つに分けて説明しています。

このうち、大学生活で特に重要になるのが、精神的自立です。


精神的自立とは、何でも一人で決めることではありません。

大切なのは、必要に応じて人に相談しながら、最終的に自分のことを自分で選んでいくことです。


ところが、発達障害やグレーゾーンの学生の中には、この「相談しながら決める」というプロセスが苦手な人がいます。


相談するためには、自分が何に困っているのかをある程度言葉にする必要があります。

どこまで自分で考え、どこから人に聞けばよいのかを判断する必要もあります。

相手に何を伝えればよいのかを整理する力も求められます。


大学で困りごとが顕在化する背景には、このような「自分で決めること」と「人に相談すること」の難しさが関係していることがあります。



自分の困りごとは、自分では見えにくい


もう一つ重要なのは、本人自身が「自分は今『困っている』んだ」と気づきにくいという点です。


自分にとっての感じ方や考え方は、本人にとっては「当たり前」です。

そのため、他の人と比べてどこが違うのか、どの場面で負荷がかかっているのかを、一人で把握するのは簡単ではありません。


たとえば、本人は「みんなも同じくらい苦労しているはず」と思っているかもしれません。

あるいは、「自分が怠けているだけだ」と考えてしまうこともあります。


しかし、実際には、その学生にとって特定の環境や課題が強い負荷になっている場合があります。


  • 大人数の講義で集中し続けることが難しい。

  • 課題の締切を複数管理することが難しい。

  • 先生にメールを書くことが大きな負担になる。

  • グループワークで自分の役割がわからなくなる。


こうした困りごとは、本人が一人で考えているだけでは整理しにくいものです。


この点、ご家族も一緒かもしれません。

生まれてから18歳、19歳になるまで育ててきた「我が子」について、「うちの子はマイペースなタイプだから」という感じで、ある程度固定されたイメージを持ってみている場合は結構あります。

これはまったくおかしいことではなく、一緒に過ごしているからこそそうしたバイアスがかかってくるものなのです。

ただ、その分、お子さんの様子に違和感を感じた際に、他の学生との違いに目を向けることがしにくくなるという側面はあるかもしれません。



まず相談しよう


大学には、さまざまな支援部門があります。ぜひそうした支援部門を活用しましょう。

大学で起きている不都合や不便は、学生本人だけでも、家族だけで悩むのではなく、大学の支援担当者にも関わってもらい、一緒に解決方法を考えていくことが大切です。

そうした支援をすることが、大学の支援部門の重要な仕事ですので、遠慮せずに相談に行きましょう。


大学には、「学生相談室」「ラーニングサポート室」「障害学生支援室」などいろいろな部門(名称は大学によってさまざまです。)があって、最初はどこに相談に行けばいいか迷ってしまうかもしれません。

一番最初は、学生課でも教務課でもよいので、まずは大学の窓口に行ってみましょう。そして「何に困っているかはうまく言えないのですが、大学生活がしんどいです」と伝えるだけでも構いません。もしそこが担当ではなかったとしても、適切な相談先を紹介してくれるはずです。


もし「何に困っているのかわからない」という状態でも、大学に通えない、気分がゆううつ、勉強への不安が強いなどの状況があれば、相談に行くことをお勧めします。

まず必要なのは、「何に困っているのか」を整理することです。


単位が取れないという困りごとの背景には、履修登録の理解不足があるのかもしれません。

課題が出せない背景には、締切管理の難しさがあるのかもしれません。

授業に行けない背景には、生活リズムの乱れや感覚過敏、不安の強さがあるのかもしれません。

就職活動が進まない背景には、自己分析や面接での言語化の難しさがあるのかもしれません。


表面的には同じ「困りごと」に見えても、その背景は学生によって異なります。

大学の支援部門には、カウンセラーや障害学生支援の専門家がいることが少なくありません。そうした専門職のスタッフに困りごとの背景を一緒に考えてもらうことは、その後の学生生活を安心して過ごしていくうえでも大きなプラスになるでしょう。


ただし、支援とは、本人の代わりにすべてを決めることではありません。学生本人が対応策を身につけて、周囲の支援を受けながらも自分で主体的に動けるようにすることが望ましい支援です。大学にいる支援者たちは、その手助けをしてくれます。


多様な学生を支える仕組み


近年、大学に進学する学生の背景は多様化しています。

全日制高校だけでなく、通信制高校やサポート校など、さまざまな学びの場を経て大学に入学する学生も増えています。

発達障害の診断を受けている学生だけでなく、診断はないものの、学習面や対人関係、自己管理に困難を抱えている学生もいます。


そのため、大学には「大学生ならこれくらい自分でできるはず」という前提だけでは対応しきれない場面が増えています。


もちろん、大学は本人の主体性を育てる場です。

しかし、主体性は放っておけば自然に育つものではありません。


困ったときに相談できる。

必要な支援につながる。

自分の特性や苦手さを整理できる。

そのうえで、自分に合った学び方や進路を考えられる。


こうした仕組みがあることで、学生は大学生活の中で少しずつ自立に向かっていくことができます。



困りごとが見えたときは、支援につながるサインでもある


大学に入ってから困りごとが顕在化することは、本人が失敗したということではありません。


それは、本人の特性と大学生活の環境との間にミスマッチが生じているサインでもあります。


高校までは、時間割や担任、家庭のサポートなどによって支えられていた部分があったかもしれません。

大学では、その支えが見えにくくなり、本人が一人で抱える場面が増えます。


だからこそ、困りごとが見え始めたときには、早めに整理することが大切です。


何が苦手なのか。

どの場面で負荷が高まっているのか。

どんな支援があれば動きやすくなるのか。

誰に、どのように相談すればよいのか。


こうしたことを一つずつ整理していくことで、大学生活は立て直せる場合があります。


大学で困り始めた学生を、「努力不足」「甘え」「やる気の問題」と見るのではなく、環境とのミスマッチとして理解すること。

そして、本人が自分の困りごとを理解し、必要な支援につながれるようにすること。


それが、発達障害やグレーゾーンの学生を支えるうえで大切な視点です。

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